HEIRLOOM

 都会島――どんぶり島の南に隣接する小さな島であるが、近年劇的に開発が進み、その名に恥じぬ超近代的な町並みと都市機能を誇っていた。
 その片隅で、一つの小さな事故が起きた。それは本当に些細な事故だった。しかし、それが後にどんぶり島を大混乱に陥れることになろうとは、このとき誰も想像できなかった。

§ § §

 ある日、どんぶり島上空を巡回していたツインビーチームは、救難信号を受信した。周囲を警戒すると、南方から一機の小型飛行艇がやって来た。燃料が足りないのか、機体は不安定に揺れている。このままでは危険だと判断したライトは、飛行艇をシナモン研究所まで誘導した。
 小型飛行艇から降り立ったのは、金髪のツインテールも愛らしい少女だった。
「私はマドカ・マードック、都会島に住んでいます。一ヶ月くらい前、私のおじいちゃんが研究所の柱に頭をぶつけたんです。それからおじいちゃん、人が変わって『世界征服してくれるわ!』とか言い出すようになっちゃったんです。勿論、私は止めたんですけど、逆に捕まってしまって……でも、何とか隙を見て逃げ出してきたんです。お願い、おじいちゃんを止めて……元の優しいおじいちゃんに戻して下さい!」
 マードックという単語に反応を示したのは、旧友でもあるシナモン博士だった。馬鹿者が……。苦渋の表情と共に発せられた微かな呟きは、その口の中でだけ響く。
 シナモン博士は早速ツインビーチームをマードック博士の下へ向かわせた。
 しかし、マードック博士のほうが迅速だった。マドカが脱出した直後に、どんぶり島の各地に自分の手下である量産型メカ・どんぐり隊を大量に派遣、本格的に世界征服活動を開始していた。
 初動の遅れを悔いるツインビーチームだったが、嘆いてみたところで始まらない。港町たんぽぽタウン、海底公園アクアパーク、空中庭園ウーロン遺跡……どんぐり隊を発見しては次々に撃破するが、肝心のマードック博士は一向に姿を見せなかった。

 転機が訪れたのは、翌日。どんぶり島上空に巨大戦艦が現れたことだった。
 戦艦から大挙して降下してくるどんぐり隊を警察隊に任せ、ツインビーチームは飛び立つ。当然のように反撃されたが、ツインビーチームは高機動力を活かし鈍重な巨大戦艦を圧倒した。
 あと少しで墜とせる! そう思った時、ライトの視界の端で影が一つ煌めいた。
 咄嗟にライトは操縦桿を引く。次の瞬間、ツインビーがいた空間に機関(キャノン)砲が襲いかかった。
「誰だ?!」
 ライトは射手を振り返る。そこには、ツインビーに酷似した機体がいた。
「ワタシハ、ばろんびー」
 突然、通信回線が開いた。どうやら眼前の射手が回線に干渉し、強制的に割り込んできたようだ。
「オマエタチヲ、ハイジョスル!」
 バロンビーと名乗った機体は一方的に宣戦布告をすると、間髪を入れずに襲いかかってきた。
 機関(キャノン)砲と拡散砲(5WAY)を巧みに使い分けるバロンビーに翻弄されたが、三対一という数の有利を活かして辛くも撃退した。
「待て! そこにマードック博士はいないのか?」
 退散しようとするバロンビーに、ライトは問う。
「……イナイ。ワタシハ『ジリツAI』デ、ウゴイテイル。ぱいろっとハ、ヒツヨウナイ」
「そうじゃなくて……!」
「創造主(ますたー)ニアイタケレバ『ゆのみトウ』マデ、クルガイイ」
 そう言い残すとバロンビーは戦闘空域から離脱していった。

「確かにユノミ島、と言ったのだね?」
「はい、博士」
 ユノミ島――どんぶり諸島の辺境にある小さな無人島である。かつては温泉が潤沢に湧き出て多くの湯治客で賑わっていたが、火山活動が活発化、ついに島そのものを放棄せざるをえなくなったという経緯がある。近年の観測でも、火山活動は一向に衰えていないという報告が為されている。
「……俺、行きます、博士」
 モニターの向こうからライトは短く、しかし毅然と告げた。
「だからおじいちゃん、そんな顔しないで」
「じーじ、にーにー!(おじいちゃん、笑って!)」
 そう言われて初めて、シナモン博士は自分が酷い渋面を作っていたことに気付いた。一番辛いのは当の本人たちだというのに、自分がそんなことでどうする! シナモン博士は戯けるように頬を揉んで笑って見せた。
 その一連のやりとりを見守っていたマドカが
「私も……ユノミ島に連れて行って下さい!」

 猛反対するシナモン博士を強引に押し切り小型飛行艇でやって来たマドカと合流すると、ツインビーチームはユノミ島に向かった。
 流石にマードック博士が世界征服計画の本拠地にした島だけあって、どんぐり隊が手薬煉を引いて待ち受けていた。
 しかし、臆してはいられない。ユノミ島唯一の湖どんぶら湖を越えた先、マグマ火山でどんぐり隊が物資を搬入しているのを発見した一行は、マードック博士が火山内にいると判断、内部に突入した。
 内部は溶岩による灼熱地獄であるにもかかわらず、明らかに人の手が加えられ要塞化していた。侵入者を排除すべく繰り出される苛烈な攻撃をくぐり抜けたその先――巨大な扉の向こうの巨大な空間で、ついにマードック博士に再会する。
「儂の研究所へようこそ、ツインビーチーム。早速だが消えて貰おうかの。はっきり言ってお前たちは邪魔なんじゃ」
 腹の底に響く重低音と共に現れたのは――巨大なバロンビーだった。否、バロンビーとは似て非なるもの、遙かに禍々しい。
「驚いたか? これが儂の最高傑作『スーパーツインビーデビル』じゃ!」
 その巨躯の頭部、二基の砲門の狭間で火花が閃き始めた。邪悪な予感が走る……
「喰らうがいいわ、殲滅の閃光――パニッシャー!」
 次の瞬間、閃光の洪水が一行の視界を満たす。障壁(バリア)を展開して間一髪直撃は免れたが、ベルパワーを大分消費してしまった。どうする? 対策を模索していたライトだったが、
「おじいちゃん、もう止めて!」
 堪えきれなくなったマドカの小型艇がスーパーツインビーデビルの前に飛び出してしまった。
 だが、スーパーツインビーデビルに動揺した様子は欠片もない。どころか、再び殲滅の閃光(パニッシャー)の火花が閃き始めている。
 今のマードック博士には愛孫の声さえ届かない!
 可愛い顔して無茶な真似するよなぁ――ライトは軽く舌を打つと、他の二機にスーパーツインビーデビルの背後に回るよう指示を下した。しかし、巨大な両腕に阻まれて巧く回り込めない。急がないと、殲滅の閃光(パニッシャー)のエネルギー充填(チャージ)が終わってしまう。せめて砲門の片方だけでも墜とせれば!
「ミント、パステルと俺があの両腕を引きつけている間に、殲滅の閃光(パニッシャー)を止めろ!」
 そして作戦が功を奏し、何とか砲門に近づくことができたグインビーは
「●GARA-GRENADE!!」
 ありったけの特製手榴弾を砲門に向けて投げつけた。全弾命中したそれらは誘爆を引き起こし、見事片方の砲門を墜とした。充填(チャージ)完了直前だった殲滅の閃光(パニッシャー)は、片側とはいえ砲門を墜とされたことで指向性を失い、結果、行き場をなくしたエネルギーはスーパーツインビーデビルの内部で暴走を始めた。
 機体の至る処で爆発が起こり、その爆炎の中から小さな影が飛び出した。
「バロンビー!」
「イソゲ! ココハモウ、モタナイ!」
 あれだけ苦労して進んできた道を、最大戦速で駆け抜ける一行。絶対的に出力が足りないマドカの小型艇は、バロンビーが片手で強引に牽引する。
 そして、一行が脱出した直後、要塞は大爆発を起こし、それに引きずられるように、火山活動がより活発化してしまったのだった。

 一行はユノミ島を離れ、どんぶり島に戻った。ツインビーチームは満身創痍、そしてマドカは――放心していた。
「お嬢様(ふろいらいん)、ゴアンシンクダサイ」
 バロンビーは片手に抱えていたものを、マドカの前に差し出した。それを見たマドカにみるみる生気が宿る。
「おじいちゃん!」
 バロンビーはスーパーツインビーデビルが爆発した瞬間、爆炎の中に飛び込みマードック博士を救出していたのだ。
「イマハ、キヲウシナッテ、イルダケデス。モウスグ、メヲサマサレル、デショウ」
「ありがとう! ありがとうバロンビー!」
 ややあって、マードック博士は目覚めた。だが、ライトたちは警戒を解かない。ついさっきまで、自分たちを消そうとしていた張本人なのだ。しかし、
「……ん? ここは何処じゃ? お前さんたちは誰じゃ?」
 何と、マードック博士はこれまで自分がしてきたことを殆ど覚えていなかった! 研究の最中に床のコードに足を取られて柱にぶつかって――というところで記憶が途切れているらしい。
「おじいちゃん!」
 マドカはマードック博士にしがみついた。
「おお、マドカ、どうしたんじゃ? 今日はずいぶん甘えたさんじゃの」
 そして優しくマドカの頭を撫でた。眼鏡の奥の瞳は、愛孫への思いやりに満ちている。これが、マードック博士の本来の姿なのだ。
 一頻りマードック博士に甘えたマドカは、ライトたちに向き直った。
「皆さん、ありがとうございます! おかげで、おじいちゃんが元に戻りました!」

§ § §

 こうして、後に「マードック・インサニティ」と呼ばれるようになるこの騒動は幕を閉じる。
 マードック博士は本来どんぶり島の法によって裁かれるはずだったが、都会島の近代的都市開発計画の遂行者という業績に加え、ツインビーチームやシナモン博士の取り成しもあって、どんぶり島自治政府に罰金を支払うことで免罪となり、釈放されたのだった。

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