HEIRLOOM

 よく「喉元過ぎれば熱さを忘れる」というが、それにしても早過ぎやしないか? あれだけ大騒ぎになったというのに、あっという間に島民たちの関心は「マードック・インサニティ」から別のものに移り、当時のことを口にするものも殆どいなくなっていた。
 そんなある日。いつも通り学校に登校したライトとパステルに、級友たちが声をかける。
「おっすライト、ニュースだぜ!」
「あのなあマスタード、お前のニュースっていつも大したことないじゃないか」
「そんなことないぜ! なあマリ?」
「確かにいつもは大したことないかもねぇ」
「そんなぁ……でも今日のは本物だよ! 今日うちのクラスに転校生が来るんだってさ!」
「転校生?」
「何でも都会島から来たらしいわよ」
 都会島と聞いて、ライトとパステルはすぐにマドカのことを思い出した。「マードック・インサニティ」以後、多忙だったり都合が合わなかったりで行き来もなく、時々手紙やメールをやりとりする程度に留まっていた。
 ほんの少し前の出来事のはずなのに懐かしさとちょっぴりの罪悪感を感じていると、担任のアップル先生がやってきて、朝のホームルームが始まった。朝の挨拶の後、アップル先生は切り出した。
「皆さんの新しいお友達をご紹介します。さあ、入っていらっしゃい」
 アップル先生に促されて、一人の女生徒が教室に入ってきた。皆の視線がドアに集まり、どよめきが起こる。
 長い金髪のツインテール、髪を纏める紫色のリボン、華奢な手足――
 事前に打ち合わせをしていたのだろう、少女は教壇に立つと緊張の面持ちで教室を見渡し、自己紹介を始めた。
「皆さん、初めまして。マドカ・マードックです。都会島から引っ越してきました。宜しくお願いします」
 ぺこり。マドカが小さな頭を下げると、男子は歓声を上げ、女子はそんな男子に呆れながらもマドカを興味深く値踏みしていた。そんな中、
「マドカちゃん!」
 ライトとパステルは歓迎するより先に、目を白黒させていた。まさか、こっちに来るなんて、手紙にもメールにも一言だって書いてなかったのに!
「ライト君、パステルちゃん! 同じクラスだね!」
 マドカはクラスの中に見知った二人を見つけて、やっと安堵の表情を浮かべた。

§ § §

 古今東西、転校生という存在は迎え入れる側の興味をかき立てる。マドカもまた例外ではなく、休み時間になるたびに質問攻めに遭った。また整った容姿と都会島から来たということで、他のクラスからも見学者がやって来て、マドカはあっという間にデザート中学の有名人になった。
 これには流石にマイペースな性格のマドカも困惑したが、おかげですんなりとクラスに溶け込むことができたのだった。

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