HEIRLOOM

 二人は先ず、開店の日取りを決めた。今から約一月半後の土曜日。マードック博士曰く、その日は先代「ファンタジアン」が開店した日でもあるという。マドカは即決した。これ以上開店に相応しい日はない。
 とは言うものの、店舗経営の知識も技術もましてや経験もない、正に零からのスタートである。先ずは喫茶店の開業・運営に関する書籍を買って勉強するところから始まった。
 一通りざっと読んだ二人は、想像以上に苦労しそうな予感に面食らいながらも、やるべきことを列挙してみた。
 先ず、外装と内装を整えなくてはならない。壁のペンキや店内の壁紙が剥げている店に客は寄りつかない。
 次に、メニューを考えないといけない。確かに二人とも珈琲を淹れるのが巧いが、それだけでやっていけるとは流石に思っていない。
 また、カップや皿などの消耗品、厨房で使う調理器具、卓や椅子などの調度品も数を揃えないといけない。ご家庭用のものは店では使えない。
 店名は既に決まっているが、商標図案(ロゴマーク)は決まっていない。これを早急に決めないと、印刷物の発注ができない。
 食材の仕入先も探さないといけない。店先で買っていたらあっという間に火の車だ。
 そして、開店にあたって色々届け出なければならない。いかに大らかなどんぶり島でも、無断営業はご法度だ。
 見事なまでの「ないない尽くし」だった。しかし、それだけでは終わらない。さらに数日後、追い打ちがかけられた。
「すまんのう、儂の担当しておる都会島の都市開発計画が遅れておるのじゃ。今度の出張は永くなるやもしれん。出来る限り早く帰るようにするが、それまで開店の準備を進めといてくれんかの?」
 そう言い残し、マードック博士が都会島に出張に行ってしまったのだ。
 いきなり全責任を任されたマドカ。とりあえず出来るところから手を着けたが、それもすぐ膠着し、
「ダメ! やることがいっぱい有りすぎだよぉ!」
 ちょっとした混乱状態に陥ってしまった。そこへ、
 ピンポーン♪
 呼び鈴が鳴った。出てみるとそこにはライトとパステルが立っていた。
「どうしたのパステル?」
「マドカ、最近元気ないなぁと思って……それで様子を見に来たの。何かあったの?」
「心配かけちゃってごめんね。実は――」
 マドカは例の店を買い取り喫茶店を開業しようとしていること、マードック博士が都会島に急に出張に行ってしまったこと、その為に開店準備が遅れていることを説明した。
「なあマドカ、俺たちも手伝うよ。いいよなパステル?」
 困惑しているマドカを見かねて、ライトが申し出た。パステルもそれに同調する。
「勿論!」
「え? でも……」
「遠慮しないの! 私たち友達でしょう?」
「一人でやるなんて、とても無理だぜ。何でもいいから手伝わせてくれよ。ちょっと面白そうだしな」
「ありがとうライト君……」
 こうしてマドカは、ライトとパステルという心強い助っ人を得たのだった。
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