HEIRLOOM

 それは何の前触れもなく現れた。
 垢抜けない鋼鉄の巨躯。左腕の巨大な切削錐(ドリル)。胴体に大きくかかれた「鉄王」の文字。
 その無骨な鉄塊が今、たんぽぽタウンで大暴れしていた。
「ガッハッハッハッハ!」
 この上なく品のない笑い声が響く。
「我が輩こそは世界一の天才科学者、ワルモンである! たんぽぽタウンの愚民どもよ、この鉄王零号機の前にひれ伏すがよいわ!」
「ご主人様、格好いいワル!」
 ぱちぱちぱち。ワルモン博士が作り出した完全自立型量産メカ・ザコビーが賞賛する。
「ふふん、当然であろう? 世界一の天才科学者は世界一格好いいのだ!」
 因みに、ここまでの台詞は全てマイクを通じて外に駄々漏れである。
「そこまでよ!」
 そこに現れたのは、ご存じツインビーチーム!
「ワルモン博士……とかいったわね? 大人しくたんぽぽタウンから出て行きなさい!」
「ほほう、威勢がいいのう……お前たちがツインビーチームとやらか? いいだろう、貴様等まとめて、この切削錐(ドリル)の錆にしてくれるわ!」
 言うや否や、鉄王零号機は切削錐(ドリル)をウインビーに向かって繰り出した。ウインビーは難なく躱すが、巨大な切削錐(ドリル)はウインビーがいた空間を鋭く引き裂いた。ほんの少し擦りでもしたら損傷甚大は必至だ。特に、搭乗者(ライト)の存在によって能力を最大限に発揮するにもかかわらず現在搭乗者(ライト)が居ないツインビーは、危険である。
「油断するなよツインビー。ワルモンは儂の旧友じゃからよく分かる。問題はあるが出来る奴じゃ」
「★大丈夫だビ博士! この程度、何ともないビ!」
「おのれ、ちょこまかと……ならば、これでどうだ!」
 鉄王零号機の背中が割れて、中から誘導弾倉(ミサイルポッド)が現れた。
「ファイヤー!」
 ワルモン博士の合図で、無数の誘導弾(ミサイル)が一斉射出された。
 しかし、ツインビーチームは冷静に弾道を予測し、華麗に撃墜していく。
「どうしたの? それでお終い?」
「▼パステル、未だ終わってないビ!」
 撃墜しきれなかった一基の誘導弾(ミサイル)が街に向かっている。着弾地点は――
「★ファンタジアンだビ!」
「!!」
 今、ファンタジアンにはライトとマドカがいる!
「駄目ぇっ!」
 ツインビーとウインビーは誘導弾(ミサイル)の後を追跡するが、
「逃げてお兄ちゃん! マドカ!」
 パステルの願いは届かない。
 ズド……ン……
 目の前でファンタジアンは被弾し、爆音と共に瓦礫の山と化した。
 ざわっ……パステルの怒髪が天を衝く。
「いくよミント!」
 ウインビーとグインビーは互いの両腕を繋ぐと、ベルパワーの充填(チャージ)を開始した。
 しかし、それを黙って見ているワルモン博士ではない。
「ククク……何をしても無駄なこと。これで止めだぁっ!」
 眼前に迫り来る鉄王零号機の切削錐(ドリル)!
「●充填(チャージ)完了だビ!」
 次の瞬間、それは具現する。
「▼●円弧光撃(カーブレーザー)!」
 二機のベルパワーによって発現した弧を描く光が、巨大な切削錐(ドリル)を圧倒していく。
「何っ?!」
 そして円弧光撃(カーブレーザー)は切削錐(ドリル)を真っ二つにすると、勢いを落とすことなく鉄王零号機の胴体をも切り裂いた!
「馬鹿な?! 天才科学者たるこの我が輩が、こんな奴らに後れをとるだと? 認めん! 断じて認めんぞぉぉ!!」
 非常用の脱出艇で、離脱しようとするワルモン博士。しかし、出力全開はずなのに、速度が全く上がらない。見ると、ツインビーが脱出艇の舳先を抑え込んでいた。
「おのれ……行けザコビー! あの丸い奴を排除しろ!」
 しかし、応えはない。いつの間にか、操縦席の中には自分一人だけになっていた。
「ザコビー? おいザコビー、何処に行った?」
「★あのオイラたちにちょっと似ている奴等のことかビ? あいつ等なら家に帰るってベソかきながら飛んで行ったビ」
 そう言うとツインビーは舳先を掴んだまま、脱出艇を二度三度振り回した。ワルモン博士は何とか逃げようとするが、元々出力の小さい脱出艇ではベルパワー全開のツインビーを振り切るのは到底不可能である。
「★街とファンタジアンを壊した責任、きっちりとってもらうビ!」

 ウインビーとグインビーはファンタジアンに急いだ。殆ど出来上がっていた店舗は全壊し、無惨な姿を晒していた。
「ウインビー、グインビー、手伝って!」
「▼わかったビ!」
「●ミント、ちょっと五月蝿くするけど我慢するビ」
 パステルはウインビーたちと共に瓦礫の除去作業を始めた。
 服が汚れようが、髪が乱れて埃まみれになろうが、パステルは構わずに瓦礫を次々と退けていく。
 マドカが死んじゃったらどうしよう? お兄ちゃんが死んじゃったら――厭な考えばかりがパステルの脳裏を支配していく。知らず、パステルは祈っていた。お願いメローラ姫、お兄ちゃんたちを助けて!
 その直後、
「▼パステル! ライトたちがいたビ!」
 ウインビーがマドカとライトを発見した。マドカは気を失いながらも、胸に形見の豆碾き機(コーヒーミル)をしっかりと抱きしめていた。そしてライトは、そんなマドカを庇って負傷していた。
「お兄ちゃん! マドカ!」
「ううっ……」
 パステルの呼びかけに応えるように、先にライトが気が付いた。体を起こそうとするが、足と背中に激痛が走りそれを阻む。
「お兄ちゃん、よかった……無理しちゃ駄目よ。今応急処置をするわ。ウインビー、お願い」
「▼ビ! これが終わったらすぐに病院に行くビ」
 ウインビーが手早くライトに応急処置を施していると、マドカが目を覚ました。
「? あれ? 私、お店にいたはずなのに……」
 何で、夕焼け空が見えるんだろう? 何で私、豆碾き機(コーヒーミル)を抱えてるんだろう?
「マドカ……気が付いたのね」
「パステル? どうしたの? 今日はお仕事の日だって言ってなかったっけ?」
「うん……お仕事は、中断してきたの」
 周りの様子が、だんだん見えてくる。
 何で、ちゃんと綺麗に並べたはずの卓も椅子もひっくり返っているの? 何で、さっき洗ったばっかりのカップが埃まみれなの? 何で、さっき棚に並べたばっかりのお皿が割れてるの? 何で、買ってきたばっかりの観葉植物(マニラパーム)が折れちゃってるの? なんで取り付けたばっかりのレースのカーテンが破けちゃってるの? 何で――
 何でライト君、こんな大怪我しているの?
 ……ああ、そうだ、思い出した。
 遠くから大きな音が聞こえてきて、ここは危ないから逃げようってことになって、そしたら突然ものすごい音と衝撃がして、それで咄嗟にこの豆碾き機(コーヒーミル)を抱えて、そして――
 そして『ファンタジアン』は瓦礫の山になってしまった。
「いやあああああああああああああああああぁっ!!」
 残酷な現実を認識したことを最後に、マドカの意識は再び途切れた。

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