HEIRLOOM

 マドカが次に目を覚ました時、最初に目にしたものは見慣れた天井だった。使い慣れた掛け布団に白いシーツ、お気に入りの寝巻――そうして初めて、マドカは自分が自分の部屋にいると気付いた。
 そうか、私――倒れちゃったんだね? あれからどのくらい経ったのかしら……
 閉められたカーテンの向こうから微かに漏れてくる陽の光が、今は昼間であることをマドカに教えた。
 お店無くなっちゃった……お父さんとお母さんのお店……私たちの「ファンタジアン」……
 マドカは頭から布団を被る。すぐに、布団の中が嗚咽で満たされ始めた。
 やがて、嗚咽も先細りになった頃、パステルが部屋を尋ねてきて、いきなり頭を下げた。
「ごめんねマドカ。私がドジっちゃったせいで、お店壊れちゃって……」
「パステルの所為じゃないよ。だから謝らないで……」
 マドカはパステルを気遣うが、真っ赤に腫れ上がった両の眼は誤魔化せない。パステルはそれを見て、益々申し訳ない思いに駆られるのだった。
 一方のマドカはこれ以上友人に頭を下げさせるのが忍びなくなり、別の話題を振って頭を上げさせようとした。
「ああ、そうだパステル、ライト君の具合は?」
「お兄ちゃん? もう退院してるよ」
「え?! だってあんなに大怪我していたじゃない?」
「まあ、そうなんだけどね。でも、どうしても退院するって聞かなくて……」
 無茶するなぁ――しかし同時に、正義感の強いライトのことだから、と何となく納得してしまった。
「でね、私、マドカを呼んでくるよう言われて来たの」
「呼んでくるようにって……何処に?」
「勿論『ファンタジアン』よ」
「そんな……行ってどうするの? お店はもう……」
 何故パステルはそんなことを言うのだろう? 変わり果ててしまった店の姿など、もう見たくないというのに!
 しかしパステルはそんな気持ちを知ってか知らずか、マドカを着替えさせると、強引に連れ出したのだった。

「これは……!」
 全壊した『ファンタジアン』の店舗で、ツインビーチームをはじめマードック博士やシナモン博士、そしてワルモン博士までもが作業をしていた。
「おのれツインビーども、何故天才科学者たるこの我が輩がお前等なんぞにコキ使われなきゃならんのだ?」
「★当たり前だビ、自分で壊したんだから自分で直すビ!」
 ツインビーチームとワルモン博士は、瓦礫を運び出して地均しをし、
「儂は本来、建物の設計は専門外なんじゃがの」
「とか何とか言いながら、随分楽しそうじゃぞ」
 シナモン博士とマードック博士は、新しい店舗の設計をしていた。
「遅いぞマドカ」
 ライトの声に、その場にいた全員がマドカを振り返る。
「ライト君、怪我は?」
「ああ、もう全然平気だぜ!」
 そう言って、笑ってみせるライト。だが、体のあちこちに巻かれた包帯が痛々しい。
 マドカは急に自分が恥ずかしくなった。ライトたちが店を再建するために頑張ってくれている時に、自分は何をしていた? 打ちのめされて泣いてばかりで、何もしていなかったではないか……そうだ、泣いてばかりじゃいられない!
「ありがとうみんな! 私もやるわ!」

 夕方になってようやく店舗の設計作業が終わり、建築の作業が始まった。
 自分の仕事が一段落し、マードック博士は椅子にもたれるようにして眠りに落ちた。
 マドカはそっとマードック博士に毛布を掛けてやる。そしてシナモン博士に珈琲を淹れた。
「内装の図面とマードックの記憶を基に設計し直しておるから、完璧に元通りとはいかないじゃろう。すまないの」
「そんな……ありがとうございます、シナモン博士」
 シナモン博士はちらっとマードック博士の様子を見る。熟睡していることを確認すると、シナモン博士は小さな声で語り始めた。
「君を部屋に寝かしつけたあと、マードックが儂のところに来てな、どうしたと思う? 頭を下げたんじゃよ。『開店まで時間がないから、手を貸してくれ』とな。驚いたよ、君のお祖父さんとは付き合いが長いが、頭を下げられたのは初めてじゃった。恐らくこの先もないじゃろうな。
 だから頑張るんじゃよ。『ファンタジアン』はもはや君だけのものではない、皆のものでもあるわけじゃから」
「……はい、頑張ります」
「それとな、ライトとパステルじゃが、店を壊したことに責任を感じておっての。店を壊した張本人にも手伝わせてることじゃし、許してやってくれんかの?」
 シナモン博士は作業現場に視線を移す。そこには、
「▼もっときりきり働くビ! RIBBON-ATTACK!」
「あひー、老人虐待反対ぃぃ!」
 散々文句を言いながらも肉体労働に開眼しつつあるワルモン博士と、厳しく監視するウインビー、触らぬ神に祟りなしとばかりに黙々と働くツインビーとグインビーがいた。
「さっきパステルにも言いましたけど、ライト君たちの所為じゃないですよ。あの大きなおじいさんには、きっちり働いて責任とってもらいますけど」

§ § §

 それからは所謂土方仕事、加えて開店に間に合わせるために完徹の突貫工事である。
 マドカやライトたちも、使い物にならなくなった陶磁器や印刷物の再発注に奔走した。
 開店までの時間が差し迫った中、出来る限りのことをやろうとそれぞれが動いていた。(約一名、動かされている人もいるが)

 そして、運命の土曜日を迎える――

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