Splendor of Ours – the first part –

Please save our WONDERLAND〜救助依頼

 信頼していたナンセンスのクーデターによって、メビウスの塔の最上階に幽閉されてしまった、メロディとフルート。
 しかも、幼馴染のエースや父の友人であったワンダーまでもがクーデターに加担し【しあわせのハープ】を奪い取ってしまった。
 初めは悲嘆に暮れていたメロディだったが、それでは何も解決しないことに思い至り、一計を案じる。
「フルート、お願いがあるの。私の姿と言葉を、その首飾りに込めてほしいの」
「構いませんけど、そんなことをしてどうするのですか?」
「その首飾りを持って『結界』の外へ行ってほしいの。心苦しいけど、こうなってしまった以上、他国の援助を頼るほかないわ」
「でも、そうしたら女王様はお一人になってしまいます!」
「私のことなら心配ないわ。それに今、これを成し遂げられるのは貴女しかいない……お願いよ、フルート」
 フルートたち妖精族には、魔法とも呼べる特殊な能力が備わっている。その力を使えば、任意の対象に音声や映像を記録したり、僅かな時間だが『結界』に干渉し、通り道を造ることもできる。
 それに、妖精族の最長老(エルディスト)がナンセンスによって何処かに監禁されている状況では、他の妖精族の同胞も皆、同様に監禁されていると思われる。となると、今『結界』の外に救援を求めに行けるのは、フルートだけである。
 正直言えば『結界』の外に行くのは怖いが、今はそんなことを言っている状況ではない。行くしかないのだ。
「わかりました女王様。私、行きます」
「ありがとうフルート」
 フルートは自分の首飾りにメロディのメッセージを封じ込めると、夜になるのを待った。
 陽が落ちて夜の帳がすっかり降りた頃、フルートは南向きの採光用の小窓から『結界』の外に向けて飛び立った。

 § § §

「ワンダー将軍、先程、妖精が一人南に向かって飛び去っていくのを、巡回の者が目撃したとのことです」
 ワンダーが部下からそう報告を受けたのは、フルートがメビウスの塔から脱走して間もなくのことであった。無論、フルートはなるべく見つからないように飛んでいたつもりだった。しかし、間の悪いことに、この日はふしぎの国では珍しく雲間から月光が差していたため、容易く発見されてしまったのだ。
 ワンダーはその妖精がフルートであると直感した。大人しくしているかと思っていたが、流石はテノール様とアルト様の娘、なかなかどうして大胆だな――我知らず片頬笑んだワンダーは、エースを呼び出した。
「お呼びでしょうか、ワンダー将軍」
 公的な場では決して義父と呼ばないよう、ワンダーはエースを厳しく躾けていた。
「フルート……といったか、メロディ女王の侍女の妖精、先程塔から脱走した」
「何ですって?」
 フルートのことは知っている。メロディ女王を見限って逃げるような娘ではないはず――俄かには信じ難い話だった。
「目的は『結界』の外だ。恐らくメロディ女王の名代として、他国の援助を頼みに行ったに違いない。エースよ、フルートが『結界』の外に脱してしまう前に捕らえるのだ」
「了解(ヤー)」

 § § §

 フルートが塔を脱出したときは月光が国中を照らすほど穏かな空だったが『結界』に近づくにつれて、雲が月光を遮り、吹き荒ぶ強風に何度も煽られそうになった。
「もうすぐだわ……」
『結界』の近くで踏ん張りながら、常に流れ行く雲の壁が少しでも薄くなっている箇所をフルートは待っていた。
 そのとき、発達した聴覚を持つ妖精族(フルート)の耳が異音を捉えた。空気を引き裂きながら高く劈く爆音――フルートは恐る恐る振り返る。深紅の小型戦闘機がこちらに向かってきていた。
 フルートはその戦闘機に見覚えがあった。エースの愛機・シューティングスターだ。当代随一といわれるほどの凄腕の操縦士で、ふしぎの国防衛軍の「切り札」とさえ呼ばれるエースから逃れることは、まず不可能だ。
 女王様ごめんなさい――仕方なく、フルートは逃げることを諦め、シューティングスターが近づいてくるのを待った。
 エースはフルートの姿を確認すると、風防を開け操縦席の中にフルートを招き入れた。
「何処に行こうとしていたんだ?」
 エースの質問に、フルートは口元を真一文字に結んで答えない。今ここで私が口を割れば、女王様が不利に陥ってしまう。何をされるか、わかったものではない。
「俺が代わりに答えようか? 『結界』の外に助けを求めに行こうとした……そうだろう?」
 やはりフルートは答えない。今度は図星を刺されたからだ。
「無駄なことだな。よしんば他国の救援を得られたとしても、【しあわせのハープ】の力は絶大だ。如何なる武力を以ってしても敵わないだろう。それは【しあわせのハープ】の調律士である君が、一番良く知っているはずだ」
「確かにそうかもしれない。でもこのままじゃ女王様が処刑されちゃう! エースはそれでもいいの? 私はそんなの嫌……だから私は行くの!」
 エースは暫し考える。ここでフルートを解放し他国から何らかの救援が来たとしても、それらは【しあわせのハープ】の力の前に悉く屈してしまうだろう。だが、このまま何もしないでいても「全世界ふしぎの国化計画」はやがて世界を呑み込んでしまうだろう。こちらから侵攻するか、迎撃するかの違いしかない。それならば、万が一の可能性に賭けてみてもいいのではないか? 『結界』の外側の誰かが【しあわせのハープ】を奪還しメロディ女王を救出するという、僅かな可能性に――
「……行くといい」
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 そう言って、エースは風防を開いた。てっきりこのままふしぎの国へ連行されるものと思っていたフルートは驚き、
「エース? 行ってもいいの?」
「ああ。だが、次に会うときは敵同士だけどな」
「敵同士?! どういうこと?」
「俺は軍人だ。上官の命には逆らえない。君が他国に助けを求める以上、俺はその他国と戦わなくてはならない」
「そんな……そんなの、女王様が悲しむわ」
 脳裡にちらと過ぎる躊躇いを、エースは強引に振り切る。
「……だろうな。正直今回の『計画』はあまりにも乱暴すぎて賛成できない。けれど、ワンダー将軍が『計画』に賛同している以上、俺もまた追随しなくてはならないんだ。異邦人(フォリナー)の俺をここまで育ててくれた恩人だからな」
 エースは自分の微妙な立場に苦しんでいる――そう気付いた以上、如何に遠慮ない性格のフルートといえど、何も言えない。今、自分ができること、為すべきことを為すだけだ。
「わかった。私、行くね」
 フルートは操縦席から外に出て『結界』の前に出た。両手を『結界』にかざして集中する。
《我が前に立ちはだかりし『結界』よ、今暫し退き、外界への道を示し給え》
 僅かに『結界』の雲が揺らぎ、外への道が繋がった。
「探査機(レーダー)に引っかからないよう、なるべく低空を飛んで行くんだ。気をつけてな」
「ありがとうエース」
 フルートの小さな体が『結界』の外へ繋がる細い道の向こうへ消えていくのを見届けてから、エースはふしぎの国へ引き返した。

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