Splendor of Ours – the first part –

TWINBEE the Brave〜救国の勇者

 ふしぎの国を脱出してから、フルートは殆ど休むことなく飛び続けていた。南十字星を頼りに、ひたすら南へ……
 しかし、二回目の朝日を目の当たりにする頃になると、流石に心身ともに限界が訪れていた。行けども行けども海ばかりで一向に陸が見えないことも、フルートの心を挫けさせていた。
 もう限界、少し休もう――フルートは休憩を取るべく波間に漂流物を探したが、こういうときに限って見つからない。
 急に背中の羽が重くなったような気がした。気力で羽を打とうとしても、その気力も尽きていた。
「もう駄目……女王様、ごめんなさい……」
 メロディに謝罪すると、フルートは羽を打つのを止めた。
 最後の意識の糸を手放した瞬間、一風変わった天使が見えたような気がした。それは青色と桃色の丸い天使だった。

 § § §

 フルートが次に気が付いたとき、真っ先に見えたのは見知らぬ少女の顔だった。
「あら? 気が付いたみたいね」
 赤毛の少女は優しく微笑みかける。
「あの……ここは?」
「ここはどんぶり島よ。そして私はパステル。よろしくね。あなたは?」
「私はフルートといいます。ここはどんぶり島というところなのですか?」
「そうよ。ちょっと待っててね、皆を呼んでくるから」
 パステルと名乗った少女は、部屋の扉を開けて出て行ったが、すぐに仲間と思しき者達と共に戻ってきた。
「お! 気が付いたか。よかったなぁ」
 頭に白いバンダナを巻いた少年が、フルートの顔を不躾に覗き込む。
「▼ライト、初対面の女の子にそんな態度は失礼だビ」
「★全く、ライトはしょうがないビ」
 桃色と青色の丸い存在が、ライトと呼ばれた少年を嗜める。何処かで見たことのあるような気がする……
「かぁい! かぁい!(可愛いなぁ!)」
「●妖精って本当にいたんだビ」
 続いて、緑色の丸い存在が、赤ん坊を抱いて来た。
「これこれ、あまり騒ぐんじゃない。妖精さんが驚いておるじゃないか」
 最後に、初老の男が全員を嗜めながら部屋に入ってきた。
「フルートといったね? 驚かせてすまないね。わしはシナモン、どんぶり島の科学者じゃよ」
 初老の男が自己紹介をすると、他の者も続いた。
「俺はライト。よろしくな!」
「★オイラ、ツインビー」
「▼あたしはウインビー。どんぶり島にようこそだビ」
「●僕、グインビー。こっちはミントだビ」
「だーち! だーち!(友達になろう!)」
 自己紹介が終わると、フルートは率直な疑問を口にした。
「私、どうしてここに? それに、その丸い方々は天使さまなのですか?」
 フルート以外の全員が、互いの顔を見合わせる。一瞬の間を置いて、大爆笑が巻き起こった。フルートは当惑する。そんなに変な事を言ったのだろうか?
「あははは……笑っちゃってごめんね。でも、ウインビーたちは天使さまじゃないのよ」
「そうそう、こいつが天使さまなわけないって!」
 ライトはツインビーを無遠慮にバンバンと叩く。
「★……本っ当に失礼な奴だビ!」
 ライトとツインビーは小突き合いを始めた。それをよそに、パステルとシナモン博士が説明する。自分たちツインビーチームはどんぶり島の平和を守るための自衛組織であること、フルートが天使と呼んだツインビーたちは高度な人工知能を持った飛行メカであること、そして巡回(パトロール)の最中にフルートを発見、保護したことを。
「そうだったんですか……助けて頂いてありがとうございます」
 フルートは改めて謝辞を述べる。
「どういたしまして♪ ところでフルートは何処から来たの?」
 パステルの問いかけに、フルートは表情を曇らせる。そうだ、死ぬような思いをしてまでここまで来た目的を、忘れてはならない。先ずは、この人たちに事情を話してみよう。見ず知らずの、しかも種族も違う自分を、何の見返りも求めず助けてくれたのだ。何か力になってくれるかもしれない――
「私はファンタスティックアイランドにある、ふしぎの国から来ました。メロディ女王を助けて欲しいのです。先ずは、これを見て下さい」
 フルートは首飾りを外し、両手で捧げ持って集中する。
《ここに封じられし言の葉よ、我が力の下、我が主の姿と共に現れ出でよ》
 首飾りの石が淡い光を放ち、空中にメロディの姿を映し出した。メロディの幻影は語り始める。
『私はファンタスティックアイランド、ふしぎの国の女王・メロディと申します。実は、私たちの国の摂政であるナンセンス大公によって、クーデターが勃発してしまいました。ナンセンス大公は国宝【しあわせのハープ】の力で全世界を掌握しようとしています。しかし、防衛軍さえも大公側に付き、私自身も囚われ処刑を待つ身……もはやナンセンス大公に抵抗する手段すらありません。このメッセージをご覧になっている皆様、お願いします。どうか一刻も早くナンセンス大公を阻止し、ふしぎの国を救って下さい……』
 映像が終わると、シナモン博士は部屋に備え付けられた端末を繰り始めた。ライトたちは、それぞれの意見を口にする。
「ファンタスティックアイランド? 聞いたこと無いな」
「★【しあわせのハープ】ってそんなにすごいんだビか?」
「ふしぎの国だなんて、御伽噺みたいよね」
「▼でもクーデターなんて、穏やかじゃないビ」
「ごーごー!(行ってみたいね)」
「●確かに、どんな国か興味あるビ」
 言葉の端々に半信半疑の心境が窺える。フルートは困惑した。一刻も早く女王様を救いたいのに、先ずそこから説明して懐疑を解かなければならないなんて――!
 そこにシナモン博士が救いの手を差し伸べた。
「君はここから来たんじゃろう?」
 端末のモニターに世界地図が映し出される。地図の上方のある一区画が赤く明滅していた。
「ここは『魔の海域』?! ここから来たって言うのか?」
 驚くライトに、フルートは頷く。
「●博士、よくわかったビね?」
「フルートを発見したときのツインビーの航行記録と、各地の文献を検索しただけじゃよ。北方のシシリア島に、ファンタスティックアイランドに関する伝承が残っているんじゃ」
 シナモン博士は慣れた手つきで端末を繰ると、モニターにシシリア島に関するデータを表示した。
 曰く、かつてシシリア島には王国が栄えていたが【しあわせのハープ】という神器を巡って戦争が起き、滅亡した。その後【しあわせのハープ】は王国の生き残りと共に、北の果てにあるファンタスティックアイランドに渡り、彼の地に封印されたという。
「で、ファンタスティックアイランドがあるとされる位置が『魔の海域』と一致するんじゃ」
 シシリア島の伝承のデータを地図に乗せる。ぴたり、ファンタスティックアイランドと『魔の海域』が重なった。
「これでフルートやメロディ女王の言っていることは本当だと、証明されたわけじゃ。そして、君はふしぎの国の危機を外に知らせるために、一人でここまで来た……こんな遠い所までよく頑張ったね」
 シナモン博士が優しくフルートを労う。フルートは泣き出したい気持ちを、しかし堪えた。今はその時ではない。メロディ女王もふしぎの国もまだ救われていない。そう、これから始まるのだ。
「そういえばメロディ女王、自分が処刑される、とか言っていたよな?」
 ライトの言葉に、その場の空気がさっと緊張する。
「クーデターにおいては、前体制の指導者は大抵処刑されるものなんじゃよ。見せしめとしてな」
「ええっ、それって大変じゃない?!」
「そうじゃ。事態は一刻を争うぞ」
「よし、それじゃ早速……!」
「待つんじゃライト。その前に、フルートに聞いておかなくてはならんことがある」
 シナモン博士はライトを制し、冷静にフルートに問い質す。
「シシリア島の伝承にも残っている【しあわせのハープ】には、本当に全世界を手に入れられる力があるのかね?」
「あります」
 フルートは短くしかしきっぱり即答した。そして言葉を続ける。
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「【しあわせのハープ】は人の心を操ることができます。演奏者の心一つで、聞き手の心を善にも悪にも変えられるんです」
「じゃあ、例えば、片想いの相手に聞かせて、自分のことを好きにさせちゃうこともできるの?」
「造作もありません。それに、皆さんが『魔の海域』と呼んでいるもの――私たちは『結界』と呼んでいますが――あれは【しあわせのハープ】の存在を他国から隠すために張られた『結界』で、ハープ自身の力を使っています。他にも、私は詳しく知らないのですが、様々な力を持っているといわれています」
 あの『魔の海域』を作り出しているというだけでも【しあわせのハープ】の力の強大さが窺い知れる。流石に断言するだけのことはある。そして今、それが悪用されようとしている。何としても、阻止しなくてはならないだろう。
「わかった。すぐにふしぎの国へ向かったほうがいいじゃろう。ツインビーチーム、出動じゃ!」
「待ってました! 行くぜツインビー!」
「★久々の事件だビ。腕が鳴るビー!」
 ライトとツインビー機は真っ先に飛び出していく。
「えぇっ?! あのっ、行くってまさか皆さんが、ですか?」
「そうよ」
 驚くフルートに、パステルは事も無げに答える。フルートはてっきり、どんぶり島の軍隊に連絡を取るとかするものだと思っていただけに、不安が顔に出てしまったようだ。どんぶり島の自衛組織とはいえ、軍相手にたった三機で何ができるというのか?
「大丈夫よフルート。私たちに任せて! さあミント、ウインビー行きましょう」
「おー!(行こう!)」
「●フルートは僕に乗って行くといいビ」
「▼それじゃ博士、行って来るビ!」
「気をつけて行っておいで。フルート、来たばかりですまないが、案内を頼むよ」
 フルートが返答しかねていると、ミントが子供特有の強引さで、フルートをグインビーに乗せてしまった。
 本当に大丈夫なのかしら?―― 不安を拭い切れないまま、フルートはツインビーチームと共に、ふしぎの国へ戻ることになった。

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