Splendor of Ours -the latter part-

Engagement・II~交戦・II

 突如戦闘空域から離脱したシューティングスターの後を追うような形で、ふしぎの国の本土上空に差し掛かったツインビーチーム。その存在を確認すると、ワンダーはたった今エースから報告を受けた周波数を用いて、ツインビーチームへ通信回線を開いた。
 通信用モニターに、頭に白いバンダナを巻いた少年が映し出される。どう見てもエースより遙かに若い。ワンダーは我が目を疑い、呆気に取られた。このような子供に、我が軍は壊滅寸前まで追い詰められたのか?! だが、動かし難い事実だ。厳然と受け止めなくてはならない――ワンダーは素早く気持ちを切り替え、バンダナの少年に言い放った。
「異邦人(フォリナー)たちよ、ふしぎの国へようこそ。儂はふしぎの国防衛軍最高司令官ワンダーと申す」
 バンダナの少年はワンダーが放つ軍人独特の威圧感に一瞬怯んだようにも見えたが、臆することなく口を開いた。
「俺たちはツインビーチームといいます。フルートから経緯を聞いて、ここから南にあるどんぶり島から来ました。世界を支配しようなんて、俺に言わせれば馬鹿げています。メロディ女王を解放し【しあわせのハープ】を返して下さい」
 バンダナの少年は真っ直ぐな視線を、モニター越しにワンダーに投げる。しかし、その程度でワンダーは揺るがない。
「笑止。ここまで来ておいて、今更その様な緩い戯言を申すか? 生憎だが止めるわけにはゆかぬ。それでもまだ戯言を垂れるというなら、大公閣下に直接申し上げるがよかろう」
「どういうことだ?」
 バンダナの少年はあからさまに驚いていた。このような場面で感情を露わにするとは青いな小僧――
「ツインビーチームといったな? 貴殿等に会って話がしたいと、大公閣下は仰っておられる。儂は貴殿等に大公閣下の御意向を示し、出迎えるためにこうして通信をしておる」
 少年の身構える様が、モニター越しでも判る。ワンダーの言葉を受け、逡巡しているのであろう。だが、
「騙されちゃ駄目よ! こんなの罠に決まっているわ!」
 思いがけない横槍が入った。この甲高い声には聞き覚えがある。フルートだ。
 どうやらツインビーチームは、外部からの通信をチーム内で共有できるらしい。モニターが切り替わり、バンダナの少年の代わりに、頭にゴーグルを付けた赤ん坊――どう見ても赤ん坊だ!――が映し出される。その隣に、見覚えのある小さな妖精――フルートの姿があった。
「ワンダー将軍!」
 フルートの表情はみるみる険しくなった。
「女王様は無事なんでしょうね?!」
「無論だ。女王陛下は我々にとって大切な御方、丁重にお預かりしている」
「大切な御方、ですって? 女王様をあんな目に遭わせておいて、よくぬけぬけとそんな台詞が言えるわね!」
「落ち着いてフルート」
 別の女声が激昂するフルートを宥める。再びモニターが切り替わり、今度は赤毛の少女の姿を映し出した。
「ナンセンス大公が話をしたいというのは、本当ですか?」
 怪我をしたのだろう、形は悪いが頭部と腕部に包帯が巻かれていた。それでも努めて冷静を装う様は、健気ですらある。
「無論だ。その証拠に、我が国に来てから、シューティングスター以外に攻撃を受けたか?」
 嘘はついていない。だが真実でもない。攻撃を「しなかった」のではなく「できなかった」だけなのだ。
「お兄ちゃん、とりあえず話を聞くだけ聞いてみない?」
 赤毛の少女は、兄と呼ぶ存在に同調を求める。モニターは再びバンダナの少年を映し出した。既に逡巡している様子はない。腹を括ったようだ。
「わかりました。俺たちも戦いに来たわけではありません。ナンセンス大公の話を聞いてみます」
 我が軍を壊滅寸前にまで追い詰めておいてよく言うわ――しかし、ワンダーはそんな悪態をおくびにも出さずに、
「うむ。大公閣下もさぞお喜びになるであろう。では、誘導灯に従って来るがいい」

 § § §

 通信を終えると、ワンダーはすぐさま宮殿前の広場に向かった。ツインビーチームをそこに着陸させるよう、誘導灯を設定した。程なくやって来るだろう。
 広場で曇天の空を見上げる。色のない空に三つの丸い色があった。それぞれ青色と桃色と緑色をしたそれらは、急速に接近し、広場の中央に舞い降りた。
 なるほど。報告のとおり、まるで玩具のようだな――目前に着陸した三つの丸い色、即ちツインビーチームの三機体を見て、ワンダーは瞠目する。
 機体の風防(キャノピー)が開き、バンダナの少年と赤毛の少女、赤ん坊とフルートが降り立った。ワンダーの姿を認めたフルートが、真っ先に詰め寄ってくる。
「女王様は無事なんでしょうね?!」
「丁重にお預かりしている、と言ったはずだぞ」
「嘘ばっかり! あんな所に閉じ込めている時点で、ちっとも丁重なんかじゃないわよ!」
「止めろフルート。ちょっと下がっていてくれ」
 尚もワンダーに食ってかかろうとするフルートの間に、少年が割って入った。感情的になっていては埒が開かない。
「ワンダー将軍、ですね? 俺はライト、こっちはパステルとミントです」
 ライトと名乗ったバンダナの少年は緊張を隠しきれず、赤毛の少女パステルは複雑な面持ちで会釈し、赤ん坊のミントは不機嫌な視線をワンダーに向けていた。
「ようこそ、ツインビーチームの諸君」
 そんなツインビーチームの態度など意に介さず、ワンダーはライトたちに慇懃に挨拶する。
「早速だが、奥に大公閣下と貴殿等の話談の席を設けてある。望むなら、その間に貴殿等の機体を修復させてもよいが?」
「いえ、大丈夫です。ツインビー、一緒に来てくれ」
「★わかったビ!」
 言うが早いか、ツインビーはあっという間に中型犬ほどの大きさに縮んだ。残りの二機――ウインビーとグインビーもそれに続く。
「…………」
 ワンダーは言葉を失っていた。白昼夢でも見ているような気分だった。機体が縮むというだけでも信じ難いことなのに、制御なしで動作し、あまつさえ人語をも繰るとは! たかが戦闘機のはずなのに、人格を有しているというのか?
「ワンダー将軍? どうしたんですか?」
 パステルがワンダーに声をかける。非現実的な事象を目の当たりにしたとはいえ、相対している者の前で呆けるなど、あってはならない。
「失礼した。さあ、ついて参られよ」
 ワンダーは自ら先に立ち、ツインビーチームをナンセンスの元へ案内した。
 人気のない回廊を奥へ進んでいくワンダーとライトたち。こんな子供たちに、我が軍が壊滅寸前まで追い込まれるとは、な――おのぼりさんの如き歓声を背にしながら、ワンダーは気付かれぬように溜息をついた。ふしぎの国が永く国を閉ざしていた間に、外の世界はどれほど発展したというのだ?
 そうこうしているうちに、一際大きな両開きの扉が見えてきた。この扉の向こうは、謁見の間へ通じている。
「ここは謁見の間。こちらに話談の席を設けてある。ただ、大公閣下はどうしても外せない所用で、まだこちらにはいらしていない。暫し待たれよ」
「ワンダー将軍は来ないんですか?」
「大公閣下と貴殿等の話談の席に、軍人は不要であろう。儂は隣にある控えの間で待機しておる」
 何か言いたげなライトにきっぱり言い放つと、ワンダーは扉を開け中に入るようライトたちに促した。

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