Splendor of Ours -the latter part-

 大規模な舞踏会を行ってもまだ余裕のある、広大な空間。
 その周囲を彩る、歴史的価値があると思われる絵画や彫刻。
 水晶をふんだんに使った、豪華な装飾電灯(シャンデリア)。
 中央に置かれた巨大な食卓。
 ワンダーに促されるままに、謁見の間に入ったツインビーチームは、全てにただただ圧倒された。これではまるきり、お伽噺ではないか!
 とは言っても、あまりぼんやりしたりはしゃいだりしても失礼にあたるということで、とりあえず食卓について、ナンセンスを待つことにした。
 それを見計らったかのように、広間の片隅に十二、三人ほどの大人が入ってきた。手にそれぞれ楽器を持っている。どうやら宮廷楽団のようだ。
 その中にフルートの見知った顔があった。近づいて声をかけるが、何の反応も示さない。というよりも、楽団員たちは皆一様に虚ろな目をしていた。それでも、楽団員たちは楽器の調律を手早くすませ、協奏曲を演奏し始めた。
 どうしたのかしら? 不安に駆られるフルートだったが、ライトたちに呼ばれやむなく卓に戻った。
 フルートが卓を離れている僅かの間に、卓には所狭しと美味しそうな食事やお菓子が並べられ、ライトたちは早速それらに手を付け始めていた。
「ライト! 食べてる場合じゃないわ!」
「それはそうだけど、肝心の大公がいないんじゃなあ……」
 ライトは手近のタルトを摘んで頬張り、紅茶と一緒に胃に流し込んだ。
「お給仕の人にね、まだ時間がかかりそうだから先に食事してて下さいって言われたの」
「ぽんぽん、ぺこぺこー(僕、お腹空いたよ)」
 パステルとミントも、それぞれ紅茶とホットミルクに口を付け、クッキーを摘んでいた。フルートの気持ちも解るが、ここは待つしかない。
 しかし、フルートは胸騒ぎを覚えずにいられなかった。楽団員たちの様子といい、エースの豹変ぶりといい、何か嫌な予感がする――

 § § §

 十分が過ぎ、二十分が過ぎ、三十分が過ぎても、ナンセンスが現れる気配はなかった。宮廷楽団による生演奏は相変わらず続いていたし、食事やお菓子は無くなる寸前に絶妙のタイミングで運ばれてきてはいたが、いい加減待つのにも飽きてきた頃合いだ。
「あの、ナンセンス大公はまだ時間かかりそうですか?」
 思い切ってパステルは給仕に聞いてみた。給仕は虚ろな目でパステルを一瞥すると、
「もう暫くお待ち下さい」
 感情がまるで篭もっていない、抑揚のない声で、一言だけそう告げた。ちょっと感じ悪いわね――パステルは内心むっとしたが、クーデターの首謀者の懐にいるという状況を鑑みれば、やむを得ないのかもしれない、と思い直した。
「それにしても遅いな。いつまで待たせる気だ?」
 パステルと対照的に、ライトは思ったことを率直に述べた。
「もう暫くお待ち下さい、ですって」
「何だよ。さっきからそればっかりじゃないか」
「私に言わないでよ。文句があるなら、ナンセンス大公に直接言ってちょうだい」
 痺れを切らしたライトとパステルが、諍いを始める。それを止めようとしたフルートだったが、その時、絶対音感をもつその耳がある違和感を捉えた。
 謁見の間に入ってから、間断なく響いている協奏曲。今演奏されているのは「ハープのための協奏曲」フルートもよく知る曲だ。演奏そのものに問題はない。問題なのは、主役を務めるハープの音色だ。
 フルートは恐る恐る、楽団がいる一角を窺う。表情はよく判らないが、ハープの奏者は背高痩身の男だった。その手元に視線を転じると、
 ――【しあわせのハープ】!!
 フルートは瞬時に理解した。この謁見の間で、何が行われようとしているのかを。わざわざツインビーチームを宮殿に招き入れた理由を。
 ライトたちに【しあわせのハープ】の音色を聴かせて、自分たちの意のままに操ろうとしているのだ。ほんの短い時間しか行動を共にしていないが、それでも彼等が強い戦士たちであることは十分理解できた。そんな彼等がナンセンス側についてしまったら――!
 次の瞬間、フルートは躊躇わず行動を起こしていた。あらん限りの速度で楽団のいる一角まで飛ぶと、
「聴いちゃ駄目っ!!」
 ライトたちにあらん限りの声で叫び、ハープの奏者に体当たりをかました。不意をつかれた奏者は椅子から転げ落ちたが、すぐに立ち上がると、
「ナーンセンス! たかが蚊蜻蛉(かとんぼ)の分際で!」
 フルートを思い切り手加減なしではたき落とした。悲鳴とともに、床に叩き付けられるフルート。
「フルート!」
 ライトは慌てて助け起こしたが、フルートは全身を強打して重傷だ。それでも、喘鳴の狭間からフルートは注意を促す。
「気を付けて……あいつがナンセンス大公……そしてあいつが持っているのが【しあわせのハープ】よ……あいつの演奏を聴いちゃ駄目……悪い心に変えられちゃうわ……」
「解った。もういい。喋るな。後は任せろ」
 気を失ったフルートをミントとグインビーに託すと、
「……どういうつもりだ? 俺たちと話し合いたいんじゃなかったのか?」
 ライトは背高痩身のハープ奏者――ナンセンスを睨み付けた。ナンセンスはライトの視線に一瞬たじろいだが、そこは仮にも為政者、すぐに何事もなかったかのように取り繕い、
「勿論、話し合いはするザマスよ。但し、私の演奏を聴いた後に、ザマス」
 ポロ……ン。【しあわせのハープ】を爪弾きだした。
「みんな、耳を塞げ!」
 ライトは咄嗟に指示を下した。パステルとミントは言われるままに耳を塞ぎ、ツインビーたちも感知器(センサー)を一時的に遮断してハープの音色を防いだ。
 如何に強大な力を持つ【しあわせのハープ】といえど、物理的に音を遮断されてしまっては、その効力は及ばない。ナンセンスは【しあわせのハープ】が通用しないことが解ると、
「ナーンセンス! 素直にハープの音色を受け容れればいいものを!」
 ヒステリックな捨て台詞を残し、その場から逃げ出そうとした。が、悪党を看過するほどツインビーチームは甘くない。
「★逃がさないビ!」
 ツインビーはすかさず元の大きさに戻ると、ナンセンスの行く手に先回りして逃げ道を塞いだ。
「▼さあ【しあわせのハープ】を返すビ!」
「●メロディ女王も解放するビ!」
 ウインビーとグインビーも続いて元の大きさに戻り、ナンセンスを取り囲んだ。
 一方のナンセンスは、軽い混乱状態に陥っていた。一体こいつ等は何なんザマス?! さっきまで犬ぐらいの大きさだったのに、何でこんなに大きくなっているザマス?! 拙いザマス、拙いザマス! 何とかしなくては!
 追い込まれたナンセンスの脳裏に、悪魔のような着想(アイディア)が閃いた。こうなったらもう、これしかない!
 ナンセンスはツインビーたちにばれないように、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。その指先が、硬くひんやりとした何かに触れる。さらにそっとまさぐると、小さな突起に触れた。ナンセンスは躊躇わず、その突起を押し込んだ。
「ナンセンス大公、観念しろ!」
 ライトたちもナンセンス大公を取り囲む輪に加わった。ナンセンスは項垂れ、特に抵抗する様子はない。
 これでクーデターも終わりだ――と誰もが思った。ナンセンス以外は。
 くっくっくっ……ナンセンスの口から笑い声が洩れたのと、
「●ビ! 巨大な未確認物体が宮殿に接近中だビ!」
 宮殿に近づいてくる地響きに気付いたのはほぼ同時だった。
 はっはっはっはっは! 込み上げてくる笑いを堪えきれず、ナンセンスは呵々大笑した。
「観念するのは、そなたたちの方ザマス!」
「何をしたんだ?!」
「そなたたちに私の愛しい『彼女』を紹介しようと思って、呼んだザマスよ。来たれ、エレキドールエミリー!」
 その名を呼ばわった瞬間、謁見の間の西側の壁を突き破って、巨大な磁器人形(ビスクドール)が現れた。
「何だこれは? ……人形?」
「可愛い! ……けど、ちょっと大きすぎるかな?」
 突然現れた巨大磁器人形に戸惑うツインビーチーム。その隙をついて、ナンセンスはエレキドールエミリーの下へ駆け寄り、素早くその肩の上に乗った。
「よくもこの私を虚仮(こけ)にしてくれたザマスね! おかげで計画は滅茶苦茶ザマス。死を持って償うがいいザマス!」
 ナンセンスはズボンのポケットから、掌ほどの大きさの鉄塊を取り出し、その表面にある幾つかの突起を両手で押し込んだ。すると、それに応えてエレキドールエミリーの口が開き、中から誘導弾(ミサイル)をばらまいてきた!
「!!」
 まるで予想外の行動に、一瞬ライトたちの行動が遅れた。
「★危ないビ!」
 咄嗟にライトを抱え、横っ飛びするツインビー。次の瞬間、ライトがいた空間を誘導弾が削ぎ落とし、爆発した。
「サンキュー、ツインビー」
「★ビ! 早くオイラに乗るビ!」
「おうよ!」
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 ツインビーの風防(キャノピー)が開き、ライトは急いで乗り込んだ。パステルとミントも、それぞれウインビーとグインビーに乗り込み、戦闘態勢を整えた。
「全く……いい歳した大人が、逆ギレかよ?!」
「大公ともあろう人が、格好悪いわね」
「ぶーぶー!(ていうか、こんな所で誘導弾撃つな!)」
 散々文句を浴びせるツインビーチームだが、流石は為政者(?)ナンセンスはどこ吹く風だ。
「やるザマスか? いいザマス。このエレキドールエミリーと私が相手をするザマス! 覚悟するザマス!」

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