Splendor of Ours -the latter part-

 その頃、メビウスの塔の最上階で、メロディは祈っていた。これ以上事態が悪くならないよう、ふしぎの国の女神に祈っていた。今はそれしかできない自分を恨めしく思いながら。
 その祈りを遮るように、塔の下方から地響きと轟音が聞こえてきた。何事かしらと窓から外を見ると、眼下に信じられない光景があった。宮殿が燃えているのだ。
 一体何が起きているの? フルートは大丈夫なの? 他国からの救援者たちは? エースは無事なの? まさか――
 悪い方向に思考が傾きかけたとき、扉をノックする音がして、ワンダーが部屋に踏み入ってきた。
「ワンダー将軍、一体何が起きているのです?!」
 挨拶もそこそこに、メロディは問い質す。ワンダーはその質問に答えずに、いきなり用件を切り出した。
「陛下、時間がございません。申し訳ございませんが、宮殿までご足労願います」
「宮殿? どういうことです?」
 たった今、宮殿が燃えているのをこの目でしかと見たばかりだ。しかも、数日前に宮殿からメビウスの塔に自分を幽閉しておきながら、今度は塔から宮殿へ一緒に来いなど言う。
「勝手な言い分ですね? 私をここに閉じ込めたのは、小父様たちでしょうに」
 拒絶の意志を言葉の裏に滲ませつつ、メロディは言い放った。しかし、ワンダーは特に慌てた様子もなく答えた。
「事情が変わったのです。万一の時は、陛下に人質になっていただきます」
「何ですって?」
 無礼な! しかし、その言葉は発せられることはなかった。
 黒光りする銃口が一つ、メロディに向けられていた。その銃口を携えるのは、ワンダーの背後、扉の向こうに控えていたエースだった。その瞳は虚ろで冷たい。
「うそ……エース……そんな……」
 ああ、本当に【しあわせのハープ】で洗脳されてしまったのね……メロディは辛い現実に動揺するが、すぐに自らを奮い立たせた。ならば、一刻も早くハープの力の呪縛からエースを解放してあげないと!
 メロディはエースの下へ駆け寄ると、
「しっかりしてエース! 私です。メロディです。ハープの力に負けてはいけません。本当のあなたを思い出して!」
 丹誠尽くして呼びかけた。銃口が向けられていても、例え撃たれたとしても構わなかった。
 その真摯さが伝わったのだろうか、エースの虚ろな瞳が僅かに揺れた。息づかいも荒く、頭を抱え苦しみ出すエース。
「エース、大丈夫?」
 メロディはエースに手を差し伸べるが、
「五月蝿い! 黙れ! 触るな!」
 エースは語気も荒く、その手を乱暴に払いのけた。エースが私に暴力を振るうなんて――! メロディは愕然となり、その場にへたりこんだ。
「……女王陛下、ご同行願います」
 一部始終を見守っていたワンダーだったが、流石に見かねて、メロディを立たせた。
 そしてそのままメロディの手を引き、エースを連れ立って、ワンダーは塔を後にした。

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