Splendor of Ours -the second part-

 その頃、フルートの力で『結界』を超えた救援者たち――ツインビーチームは、眼前の光景に暫し呆然としていた。
 荒れ狂う暴風と鳴り止まない雷鳴、分厚い雲の向こう側に待っていたのは、一転して穏やかな風と凪いだ海、そして小さな島影だった。
「凄い……本当に『魔の海域』の中に入れたぞ」
「中は案外静かなのね」
「ぐるぐるー(きっと台風の目と同じ原理だと思う)」
「●フルート、あの小さい島がファンタスティックアイランドだビか?」
「そうよ」
 グインビーは小さな島影を指さし、フルートは相槌を打つ。故郷を見つめるその表情は複雑だ。ほんの数日離れただけなのに、フルートは奇妙な懐かしささえ感じていた。
 その時、ウインビーが高速で接近してくる存在を感知した。素早く僚機に警戒を促す。
「▼ビ! 正面に高速移動体だビ!」
 ウインビーが捕捉した高速移動体は、すぐに確認できた。それは、深紅の塗装が施された小型戦闘機だった。前方にせり出した2枚の翼枠(フレーム)が、独特の外形(シルエット)を描き出している。
 ――あれは!
 フルートはその深紅の機体に見覚えがあった。胸中を過ぎる嫌な予感……
 次の瞬間、深紅の戦闘機はツインビーチームに向かって、いきなりレーザーを放ってきた。
「危ない!」
 散開してこれを躱すツインビーチーム。
「★速力(スピード)も凄いけど、あのレーザーもかなりの高出力だビ!」
「よぉし、そっちがその気なら俺たちもやってやるぜ!」
 ツインビーが反撃に移ろうとしたとき、
「駄目! お願い、攻撃しないで!」
 フルートはグインビーの操縦席(コクピット)から、あらん限りの声で叫んだ。フルートの予想外の行動に出鼻を挫かれたツインビーは大きく体勢を崩す。深紅の戦闘機はその隙を逃さず、再びツインビーを狙ってレーザーを放ってきた。
「お兄ちゃん!」
 咄嗟にウインビーが両者の間に立ちはだかった。
「BARRIER!!」
 ウインビーの周囲に、ほのかに青い光の障壁(バリア)が張られ、直後、レーザーがウインビーを直撃した。
 しかし、光の障壁(バリア)は高出力レーザーさえも受け流す! だが、障壁(バリア)の展開があと一瞬でも遅れていたら、ツインビーもウインビーも黒焦げになっていただろう。
「危なかった……サンキューパステル」
「どういたしまして。でも、らしくないんじゃない?」
「そうだ。おいフルート、一体どういうつもりなんだよ?!」
 自ずと詰問するような口調になってしまうライト。びくり! フルートは萎縮しながらもなお、答える。
「ごめんなさい……でも、だめなの。撃たないで」
「だからどうして?!」
「あの戦闘機――シューティングスターに乗っているのは、エースなの」
 フルートは現実を否定するように俯いた。
 確かに、ふしぎの国を脱出したとき、エースは『次に会うときは敵同士だ』と言っていた。『上官の命に逆らえない以上、俺は戦わなくてはならない』とも。でも、エースはこんな戦い方をする人だったかしら?
「▼エースって、前言ってた、フルートを見逃してくれたっていう人だビか?」
「ええ、シューティングスターはエースの愛機よ。間違いないわ」
「そうか。だったら、話せばきっと解ってもらえる筈だ」
 ライトは「何かの役に立つかもしれない」とシシリア島で相見えたモスグリーン少佐から聞き出した周波数を使って、ツインビーに通信回線を開かせた。程なく、ツインビーのサブモニターに、金髪碧眼の青年が映し出される。フルートから聞いていた話とは違う、冷酷な視線に怯みそうになりながらも、ライトはエースに話しかけた。
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「エース、さんですよね? 俺たちはフルートに頼まれて、メロディ女王と【しあわせのハープ】を奪り還すために、ここから南にあるどんぶり島から来ました。戦うために来たわけではありません。そこを通して下さい」
 しかし、エースからの応えは冷厳だった。
「言いたいことはそれだけか?」
 感情がまるで篭もっていない、抑揚のない声で言い放つ。
「我らの計画を邪魔する者は、例え誰であろうと許さない。墜ちるがいい」
 ライトがエースとの戦いを回避すべく説得している間にも、シューティングスターは第三撃の準備を終わらせていた。
 三度走る白い閃光!
「そう何度も同じ手は食わないぜ!」
 今度はツインビーもしっかり躱すことができた。が、
「甘いな」
 冷笑を口元に湛えるエース。
 機体の後部から、小型攻防兵器(ルチアーノ)を射出し、自機の周囲に展開すると、
「WIDE BLAST!!」
 高エネルギー弾を多方向に撃ち放った。予期せぬ攻撃に、グインビーが躱しきれず、左腕関節部の駆動系が損傷した。
「ミント! フルート!」
 グインビーの下に駆けつけようとするウインビー。その行く手を、深紅の機影が阻む。
「さっきは邪魔をしてくれたからな。お返しだ」
 ぞわり。回線の向こうの冷たい声に、パステルは慄然とする。そういえば、小型攻防兵器(ルチアーノ)はどこに――?
「行け、LUTIANO」
 それは処刑宣告だった。次の瞬間、小型攻防兵器(ルチアーノ)は弾丸となって四方からウインビーに突進してきた。先刻のように、障壁(バリア)の展開も間に合わない。
「きゃああああああっ!!」
 一方的に嬲られたウインビーは海に墜落しそうになるが、ツインビーが助け上げる。
「パステル! ウインビー! 大丈夫か?」
「ごめんねお兄ちゃん……ちょっと、油断しちゃった……」
 力無く微笑んでみせるパステル。機体(ウインビー)は元より、パステル自身も怪我をしたようだ。
「手前ぇ……許さねぇぞ」
 瞬く間に、赫怒がライトを支配する。
 そこに、フルートが割って入った。もう黙っていられない。こんな非道い戦い方、エースじゃない!
「もう止めてエース! 貴方がこんなことをしているなんて知ったら、メロディ女王がどんなに悲しまれるか!」
 その言葉を聞いた途端、
「め・ろ・でぃ……? じょ・う・おう……?」
 エースの端正な顔が苦痛に歪んだ。頭を抱え、狭い操縦席(コクピット)の中で身を捩る。それに同調するように、小型攻防兵器(ルチアーノ)は滅茶苦茶に暴れ回った挙げ句、互いに衝突して自滅した。
「何だ? エースの奴、一体どうしたんだ?」
 エースの豹変ぶりに怒りの矛先を逸らされ、ライトは拍子抜けしてしまう。グインビーがミントの推測を皆に説明した。
「●多分、あの小さい奴は、エースの脳波で遠隔操作されていたんだビ。でもそういうのは負荷も大きいから、揺り返し(リバウンド)が来て錯乱状態になっているんだビ」
 そこまでする必要があるのか――あまりの非情さに、ライトたちは二の句が継げられない。
 その間にも、エースは何とか呼吸を整え、錯乱状態から立ち直ろうとしていた。スパークレーザーのエネルギー充填(チャージ)を始める。しかし、機体は警告を発し、それを拒んだ。
「何だ?」
 苛立ちながら、システムを照合(チェック)する。結果、放熱装置(ラジエーター)が作動していないことが判明した。このままでは、機体が熱暴走を起こして爆発する。
「……止むを得ん。離脱だ」
 シューティングスターは踵を返し、戦闘空域から離脱していった。
「よし、追いかけるぞ!」

「エースが撤退しました。フルートが連れてきた輩、相当な手練れと見て間違いないでしょう」
 別件についてナンセンスに報告していたワンダーの下に、注進が届く。それを受けて、ワンダーは報告の最後にそう付け加えた。
「ふん、頼りない……やっぱり異邦人(フォリナー)は駄目ザマスね。いいザマス、私がその輩をお相手して差し上げるザマス」
 これには流石のワンダーも瞠目した。人の話を聞いていなかったのか? どう考えたって戦闘未経験のナンセンスが勝てる相手ではない。勝てる要素すら一つも見あたらないのに。
「私の言うとおりに準備するザマス。それと、将軍には私の代わりに彼奴らを出迎えてもらうザマス」
 まあ見ているザマス――ナンセンスは手にした【しあわせのハープ】を撫でながらほくそ笑む。全てが自分の思い通りに運ぶと信じて疑わないその笑みに、ワンダーは一抹の不安を覚えずにはいられなかった。

~ 続 ~

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