STARTING LEGEND

 戦いが終わり、どんぶり島に帰還したツインビーたちを待っていたのは、
「ツインビーチーム、惑星メルを救う!」
 過剰なまでにツインビーたちを祭り上げる、どんぶり島のマスコミたちだった。
 ここのところ、どんぶり島はこれといって大きな事件もなく概ね平和だった。
 そこに、ツインビーチームの久々の大活躍! マスコミたちはこぞって飛びつき「ツインビーチームの英雄譚に新たな一ページが加えられた」などとさも自分のことのように書きたてた。
 また、マスコミたちはパステルの端正な容姿と自然体な言動に注目し、連日特集を組んだ。アイドルとしての素養があるとして、多くの芸能事務所が獲得に名乗りを上げ、熱心に口説き始めた。
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 一方のライトは、そんな喧騒にも我関せずとばかりに、まるで興味を示さなかった。それどころか、すっかり抜け殻のようになっていた。
 その理由は明確だ。惑星メルでの戦いの最後、ツインビーたちに『正なる意識の集合体(シャインクラスター)』の加護を与えたメローラ姫はその代償として人間としての生を終えた――正確に言えば『正なる意識の集合体(シャインクラスター)』に還元したのだが――それが原因で、ライトは塞ぎこんでいるのだ。
 見かねたパステルは何とかライトに以前の元気を取り戻してもらおうと、作戦を立案、実行に移した。名付けて『頑張れお兄ちゃん!作戦』!
 ある時は情報誌片手にライトを外に連れ出そうとしたり、
「お兄ちゃん、今度の土曜にマドラーランドに行かない? 新しいアトラクションできたんだって」
「いいよ俺は。ミントと一緒に行って来れば?」
 またある時はお菓子を手間暇かけて作ったり。
「お兄ちゃん、アップルパイ作ったの。食べない?」
「いいよ俺は。博士にあげれば?」
 しかしライトの返事はいつも素っ気なかった。
 それでもめげずに、パステルは『頑張れお兄ちゃん!作戦』を続けた。
「お兄ちゃん、都会島に買い物に行かない? 今パルオでバーゲンやってるんだって!」
「いいよ俺は。マリやセイラと行ってくれば?」
「~~ちょっとお兄ちゃん!」
 ピンポーン  話の腰を折るように、玄関のチャイムが鳴る。ふと壁の時計を見やると、夕方の六時半を回っていた。
「しまった! 今日は確か――」
 パステルはこの時間にある芸能事務所の約束(アポイント)があったことを思い出した。ライトに言いたいことは山ほどあるが、訪問者をそのために待たせてしまうのも失礼な話だ。仕方なくパステルは、
「ごめんお兄ちゃん。さっきの話、また後でね」
 話もそこそこに切り上げ、パステルはスカウトを出迎える。
「……何だよ、それ」
 ライトは、憮然とした表情でそんなパステルに一瞥をくれるのだった。

§ § §

 パステルは当初からの姿勢を崩さず、学業とツインビーチームとしての活動を優先したいという理由でスカウトを丁重に断っていた。その頑なな姿勢に手を引いた所もあったが、それでもまだ諦めていない事務所もある。
 ここ半月ほどの間で名刺じゃんけんができるほど溜まってしまった大量の名刺を前に、パステルはため息をついた。
「気持ちは嬉しいんだけど、やっぱり困っちゃうなぁ」
 とは言うものの、パステルも年頃の女の子、華やかな芸能界への誘いは決して悪い気はしなかった。
 だが、居間でぼんやりテレビを見ていたライトは冷ややかに言い放つ。
「どうして皆、お前みたいな『ダイコン足』をスカウトしたがるのかねぇ?」
「何ですって?!」
 他人から見れば決してそんなことはないのだが、パステルは『自分の足は太い』といってとても気にしている。よってパステルに『ダイコン足』は禁句なのだ。お兄ちゃん知っているくせに! それを間近に聞いてパステルは途端に頭に血が上った。しかしライトは構わず続ける。
「メローラ姫が死んだっていうのに、何はしゃいでんだよ? お前何ともないのかよ?! 本当に薄情な奴だな!」
「そんなことないわよ! それに、メローラ姫は死んだんじゃなくて――!」
「『正なる意識の集合体(シャインクラスター)』に還ったって言うんだろう? 同じだよ! メローラ姫は死んだんだ! 護りたかったのに……俺は護れなかった……」
 プツッ。ついにパステルの中で、堪忍袋の緒が派手な音を立てて切れた。
「何よ! いつまでもウジウジして! メローラ姫言っていたじゃない! いつも見ているから、きっとまた会えるから悲しまないでって……それなのに……お兄ちゃんは結局自分のことだけしか見えてない! 私のことも考えてよ! 皆のことも考えてよ!」
「何だと――!!」
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 痛いところを率直に指摘されたライトは逆ギレ、感情に任せて反論した。
「お前の方こそ、俺の気持ちなんて知りもしないくせに! 何が遊びに行こうだ? 女房じゃあるまいし、何様のつもりだよ?! 俺のことは放っといてくれよ!」
「あっそう、そういう言い方するんだ?! 何かもう心配して損しちゃったわ!」
 パステルは机の上に積まれている名刺の山に、無造作に手を突っ込んで一枚引き抜いた。
「お兄ちゃんのことなんてもう知らない! 私も勝手にやらせて貰いますから、そちらもどうぞご勝手に!」
 名刺に書かれていた名前は――芸能事務所『フィジックス』社長エリナ・スラッシュ。規模は小さいが、社長自ら出向いて来てスタッフのやる気を熱くアピールしていた。
 パステルは迷うことなく受話器を取ると、名刺に書かれた番号をダイヤルした。
「……もしもし、パステルです。あの、先日のスカウトの件なんですけど……はい、やってみようと思いまして……はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

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