STARTING LEGEND

「こんばんはパステルです! 今度デビューすることになりました。宜しくお願いします!」
 ステージの中央でパステルは高らかに宣言し、深々と頭を下げた。一際高く響く歓声と拍手。 「それでは先ずこの曲からお送りします……『HOLIDAY』聞いて下さい」
 この曲は詞・曲ともにアイドルソングの王道をゆく歌である。ミディアムテンポで決して難しくない――はずなのだが、緊張から気持ちが先走り、歌の出だしのタイミングをいきなり間違えてしまった。
 慌てて伴奏を追いかけるように歌い出すが、どうしても微妙にずれが残る。
 ――何とかしないと!
 チラッとライトを見やる。視界の端でライトは笑っていた。お前の頑張るってこんなもんなのか? 嘲笑だった。
 ――お兄ちゃんに格好悪いところは見せられない!
 そこで曲が間奏に入った。パステルは落ち着いてリズムをとる。立て直すならこのタイミングしかない。

 ♪クツをぬいで 波をけって はしゃぐの
 ♪寄せる波 ふたりの仲 じゃまする
 ♪おいでよと急に 抱きかかえられて
 ♪水しぶき 妬かないで 見ないフリしてて

 2番の出だし、パステルはきれいに曲に入ることができ、そこからはミスすることなく歌うことができた。
「ごめんなさい。最初から、とちっちゃいました!」
 パステルは再び深々と頭を下げた。
 全然オッケー! ドンマイ!  暖かい声援に励まされ、自己嫌悪に陥りそうになった心が少し軽くなった。
「ありがとう。次にお送りする曲は私のお気に入りだから、ちょっと自信あるの」
 二曲目『星を往く船』はスローバラード。

 ♪ひかり揺れるように すべる流線のうえ
 ♪見つめてる先に あるの 輝き
 ♪髪をほどいている わたし連れていってね
 ♪二人掛けの小さな 星を往く船で……

「よかったー、今度はちゃんと歌えて」
 それから暫しMCに入った。
 数日前、ステージ内容を聞いた当初、パステルはMCといわれても何をどう話したらいいのかさっぱり分からなかった。しかし「最初なんだから身の回りの出来事とかでいいのよ」というエリナの助言を得て、学校のことや稽古中の裏話を中心に、何とかMCのネタを捻り出したのだった。
 また「トークの技術はラジオを聴くのが一番」とも聞いたので、暇さえあればdb‐FMにチャンネルを合わせ、パーソナリティの語り口に耳を傾けた。
 その甲斐あって、多少もたつく場面はありつつも、時折会場を笑いで沸かせたりしてMCはつつがなく進行した。
「名残惜しいけど、お別れの時間が近づいてきました」
 えええぇぇぇっ!! 終わっちゃやだ! もっと歌って!  会場から不満の声が一斉に上がる。
「みんなありがとう! 嬉しいなぁ……もっと歌いたいし話したいけど……あ、ADさんが手を回している……それじゃ、最後の曲、全力で行くよ!」
 最後の曲は、ポップな曲調の『Silver Night』。

 ♪Silver Night 天使が夜を駆ける
 ♪Silver Night 不思議な物語ね
 ♪Silver Night 教えて恋の行方
 ♪Silver Night あなたのそばにあるやさしさ

 割れんばかりの拍手と歓声が、パステルを包む。
 こうして、パステルの初めてのステージは、大成功を収めたのだった。

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